スタイリッシュにゴキ退治

 

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目標を視認。

 全く彼らはいつもいつも節目ばかりを狙って出てくる。

 たとえば帰宅して電気をつけたときとか、朝に起きて台所に向かった時とかだ。

 確かに地球という世界での先住民は彼らだ。
敬愛を払うのもやぶさかではない。 

 ただし私の生活圏に触れない範囲でという条件付きだ。

なにしろこちらは霊長類のトップにして生態系の覇者、人間様である。

 おっと失礼、わかりやすく言わせてもらえるなら……。

 敬意をはらってやろう……虫けらども!

 さてと早いとこあの侵略者を排除しないとな
 何しろもう少しすれば妻の恵理子と娘の奈々が起きてしまう。 

 あの二人がこの侵略者どもを見たらと考えたら……!

 怖気の走るような想像を振り払って僕は彼ら対策の噴射機を慎重に手に取った。

 さあここからが狩りの時間だ……。 

 瞬間、殺気を感じたのかターゲットが動き始めた。 それは明らかに逃避行動だった。 


 ターゲットは東北東から東南東へと移動。

 その先は……いかん、寝室だ!

 もし寝室に侵入されたとしたら大損害の可能性がでてしまう。

 寝室にまで浸食されるなんていや!

早くこのおんぼろアパートから引っ越しさせてよ! 

 パパ~甲斐性無しってどういう意味~? ママが聞いてきてって~。

 なんて言われてしまう。

 大股で進行方向へと回り込む。 奴は右方向へと進路を変える。

 これで寝室侵攻という最悪の結果は免れた。

 慌てず奴の中空に噴射機で毒ガスを発射する

 最大の武器である敏捷性を減少させるために広範囲にばらまく。

 よし! 確実に足にきている。 

 このまま押し切れるか?

 矢先に奴が再起動する。 まるでひっくり返ったラジコンカーのように高速に一部分がせわしなく動かしていたというのに……。

 まったくあきれたしぶとさだ……自然界では長生きできる奴は総じて生命力が強い。 ましてや身体は小さく、形状もシンプルだ。 まさに無駄がない進化をしてる。

 だが人間は進歩をしている。

そしてそれは我々側が決して負けることのない程の差をもたらした。

「残念ながらそれは読んでいるよ……」

 シュッと身体の自由を奪う毒を無慈悲に降り注ぐ。

 獲物の動きがさらに一段階ほど遅くなった。 止めの一撃の前に祈りを捧げる程度には余裕ができるほどに……。

 それでも私は油断をせずに獲物を注視する。 すでに獲物の手足は硬直している。

死んだ……。 止めを刺すまでもなく……敵は死んだ。

 命の重さは同じだ。 それは価値的にも、ありえるとしたら物理的な重量でもだ。

 だが価値観は違う。

 私はもちろん前者の考えを肯定する。

 命の価値も重さは変わらないと本当に思っている。

 ただ私の価値観では目の前の存在の評価は虫けらだ。 

 人の価値は人それぞれ……。 

 全く昔の人は本当によい言葉をいうものじゃないか……。

今度奈々にそういう本を買ってきてあげようかな?

 その刹那、虫けらが飛び上がる。 
まるでろうそくが燃え尽きる最後の瞬間のようにだ……。 

全身に致死性の薬品を浴びなら羽を広げて最後まで希望を捨てない。

 迴光反照。 (かいこうはんしょう) 

 炎が消える一瞬、大きく燃え上がる瞬間をそう言うのだそうだ。

 まさに彼は生の炎を燃え上がらしてここから飛び立ちたいのだろう。 

 最後まで生きることを諦めないという本能に敬意すら覚えるのだが……。

「佐藤健夫……それが君を殺した人間だ……知能があるのなら覚えておいてくれ」

 私もまた最後まで倒すことを諦めず……飛び立つ彼を中心に最後の一撃を加えた。

 ポトリと落ちる死体を一瞥すらせず、彼の墓場の扉を開けて数十センチ程の紙を持ってくる。

そして彼の遺体を優しく包み込み、墓へと運ぶ。

「君に敬意を持って、ゴミと一緒に腐らせるということはやめよう……」

 尊敬すべき敵を墓標の無い、ラベンダーの匂いのする場へと水葬をした。

「おはよ~う……何をゴトゴトしてたのかしら?」

「パパ~!おはよう!」

 彼を始末せざるを得ないほどに愛している家族が私を迎えてくれた。

「ああ……何もなかったよ……何も……さ」

 知る必要のないことをあえて報告する必要なんてないさ……。 私はトイレから去り、洗面所で石鹸をつけてよく手を洗う。

 そして無邪気に私の隣で一緒に手を洗おうとする娘の頬を優しく指でさすりながら心中で一人告白をした。

『娘よ……お父さんは今日もスタイリッシュだったよ』


あとがき  小説書き始めの頃にすごくくだらないことをすごく格好良く書いたら
      どうなんだろうという思いつきで書いたやつです。実際そう書けたかどうかは微妙ですが個人的には気に入ってる作品です。

 

 

 

 

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